デカルトの密室
瀬名秀明の「デカルトの密室」です。
瀬名秀明の本は結構難しいのですが、この本も難しいです。この本では、デカルトの言葉を多く引用しながら、人とロボットの境目が描かれます。
ストーリーは、主人公の作ったロボットが人を殺してしまうところから始まります。どうして彼(ロボット。ケンイチと言います。)は人を殺してしまったのか? その謎を追いながら、ケンイチの成長(!)が描かれます。
人とロボットの違いとは何でしょうか?
この問いに答えるためには、「人」とは何かを正確に定義する必要があります。しかしそんな事は可能でしょうか? もし可能だとしても、それでは人の「意識」とは何でしょうか? 正確に定義できるでしょうか?
このあたりは攻殻機動隊や映画のマトリックスシリーズなどでも語られた話です。「意識」とは何か?「私」とは何か? そして、それらは肉体から切り離すことはできないのか? もし可能なら、逆に機械の体にそれを与えることはできないのか?
古くて新しいテーマですが、いつもの瀬名秀明のように、背景の膨大な知識、知見とともにこれらが語られます。決して結論は出ませんが、なかなか考えさせられるものがあります。
本文中に「ぼく」との一人称で語られる部分があります。しかしこれは、ロボットであるケンイチが語っている部分と、主人公である尾形祐輔が語っている部分とが混じっています。また、監禁された主人公が見ている映像、受け取っている感覚が書かれる部分がありますが、それが実は主人公が見ている、感じているものではなく、別の場所にいるロボットを通した映像だったり感覚だったりしている場面があります。ケンイチがまた銃で人を撃って殺してしまう場面があります。しかし実は撃たれたのは別のロボットで、皆その映像を見せられていただけだったりする場面があります。
もう何が何だか。(笑)
自分の見ているものが「本当に自分の目で見ているものなのか?」と思えてきます。
しかしそもそも、「自分の目で見ている、真実だと思っているもの」は本当に真実なんでしょうか?疑い始めたらきりがなくなってしまいますね。
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